こんにちは!横浜市中区本牧通り動物病院 行動診療科・獣医師の互(たがい)です。
「おすわりができたら、おやつをあげる」
「おとなしくしていたら、ほめてあげる」
犬や猫と暮らしていると、こんな場面がありますよね。でも、いざおやつを使って教えようとすると、
「おやつがないと言うことを聞かなくなるんじゃない?」
「ご褒美をあげていたら、ワガママにならない?」
「悪いことをしたときは、きちんと叱ったほうがいいのでは?」
そんな疑問を感じる飼い主さんもいるのではないでしょうか。
実は、動物の行動を理解するうえで大切なのが、「正の強化(せいのきょうか)」という考え方です。
前回のブログでは、犬や猫を叱る前に、その行動が起きる理由を考えることの大切さについてお話ししました。
今回はその続きとして、「では、どうすれば望ましい行動を増やしていけるのか?」という視点から、正の強化についてわかりやすく解説します!
① おやつをあげるとワガママになる?そもそも「正の強化」って何?
「正の強化」と聞くと、なんだか難しそうに感じるかもしれません。でも、仕組みは意外とシンプルです。
ある行動をした直後に、その子にとってうれしいことが起こり、その行動が将来起こりやすくなること。
これが正の強化です。
例えば、愛犬が自分からおすわりをしたとします。
その直後におやつをもらえたら、「おすわりをするといいことがある!」という経験になります。そして、同じような場面で再びおすわりをする可能性が高くなります。
ここでポイントになるのが、「正の強化」の「正」と「強化」の意味です。
「正」は何かを加えること、「強化」は行動が起こりやすくなることを意味します。
つまり、単におやつをあげること自体が正の強化なのではありません。おやつなどを与えた結果、その行動が増えることが大切なのです。
また、何がご褒美になるかは、動物によって異なります。おやつが大好きな子もいれば、飼い主さんにほめてもらうことや、遊んでもらうことが好きな子もいます。
猫なら、お気に入りのおもちゃで遊ぶことや、自分から近づいたときに優しく接してもらうことが、ご褒美になる場合もあります。
人間でも、頑張った仕事をほめてもらえたら「また頑張ろう!」と思うことがありますよね。犬や猫も同じように、自分にとってうれしい経験を通して、行動を学習していくのです。
② 「おやつがないと言うことを聞かない」は本当?
ここで、よく聞かれる疑問について考えてみましょう。
「おやつを使って教えたら、おやつがないと何もしてくれなくなるのでは?」
確かに、最初から毎回おやつを見せて指示を出していると、犬が「おやつが見えたら動く」「おやつがないなら動かない」というパターンを学習することがあります。
例えば、手におやつを持って「おすわり」と言うと座るのに、手ぶらで言うと座らない。そんな経験はありませんか?
この場合、犬は「おすわり」という言葉だけでなく、手に持っているおやつや、その見せ方を手がかりにしている可能性があります。だからこそ、教え方にも工夫が必要です。
まずは行動を覚えてもらうためにおやつを使い、少しずつおやつを見せずにその行動の合図を出す練習をしていきます。
そして、できたときには、ほめる、遊ぶ、おやつをあげるなど、その子にとってうれしい結果につなげていきます。
習得した行動では、毎回必ずおやつを与える形から、適切なタイミングで不定期に与える形へ移行することもできます。ただし、おやつを急にやめればよい、というわけではありません。行動が安定しているかを見ながら、少しずつ調整することが大切です。
また、日常生活の中にも、ご褒美になるものはたくさんあります。
例えば、散歩中に飼い主さんのほうを見てくれたら、ほめてから歩き続ける。
おもちゃをくわえて持ってきてくれたら、一緒に遊ぶ。
落ち着いて待てたら、扉を開けて散歩に出発する。
このように、おやつ以外のものも活用できます。
大切なのは、おやつで動物を操ることではなく、望ましい行動をしたらうれしいことが起こる、と教えていくことなのです。
③ 吠える・飛びつく・爪切りが苦手……日常生活でも使える正の強化
正の強化は、「おすわり」や「お手」を教えるためだけのものではありません。
実は、日常生活の中で困っている行動への対応にも活用できます。
例えば、来客に飛びついてしまう犬。飛びつくたびに「ダメ!」と繰り返すのではなく、四つ足が床についている瞬間にほめたり、ご褒美を与えたりします。
「飛びつく」ことではなく、「落ち着いて立っている」ことに注目するのです。
もちろん、興奮が強い場合には、来客との距離を取るなど、環境を整えることも必要です。
また、爪切りが苦手な猫の場合はどうでしょうか。
いきなり爪を切ろうとするのではなく、まずは爪切りを見せるだけ。落ち着いていられたら、おやつをあげます。
次は爪切りを少し近づける。その次は足に短く触れてみる……というように、小さな段階に分けて練習します。
その子が怖がったり、逃げようとしたりする場合には、無理に続けず、難易度を下げましょう。
「爪切りを見ても嫌なことが起きない」「足に触れられると、いいことがある」という経験を少しずつ積み重ねていくのです。
ただし、怖がっている動物におやつを与えれば、それだけで恐怖心がなくなるわけではありません。恐怖や不安が強い場合には、刺激の強さや距離、練習の進め方を慎重に調整する必要があります。
また、吠える行動についても、理由によって対応は異なります。怖くて吠えている犬に、おやつを使って無理に人へ近づけるのは適切ではありません。まずは安心できる距離を確保し、その距離で落ち着いていられたことなどを強化していきます。
正の強化は、どんな行動にも同じ方法を使えばよいというものではありません。
その子が何を感じているのか、何が行動のきっかけになっているのかを考えることが、効果的に活用するための第一歩です。
④ うまくいかないときは?「できたこと」に目を向けてみよう
正の強化を取り入れるときに、もうひとつ意識してほしいことがあります。
それは、最初から完璧を求めないことです。
例えば、来客に飛びついてしまう犬に、いきなり「おとなしく座って待つこと」を求めても、難しい場合があります。
そんなときは、少し落ち着いていられた、飼い主さんの声に反応してくれた、飛びつく前にこちらを見てくれた……というように、小さな変化を見つけてみましょう。
そして、望ましい行動ができたタイミングを逃さず、ほめたり、ご褒美を与えたりします。
また、ご褒美を与えるタイミングも重要です。行動の直後に与えることで、どの行動がよかったのかを伝えやすくなります。
反対に、何度練習してもうまくいかない場合には、「この子は覚えが悪い」と考える前に、少し立ち止まってみてください。
・ 今の環境は刺激が強すぎないかな?
・難しいことを一度に求めすぎていないかな?
・ご褒美は、その子が本当に喜ぶものかな?
・怖さや痛み、体調の問題が隠れていないかな?
犬や猫が行動できない理由は、必ずしも「言うことを聞きたくないから」とは限りません。緊張していたり、周囲が気になっていたり、体に痛みがあったりすることもあります。
特に、以前はできていたことが急にできなくなった場合や、触られるのを嫌がるようになった場合には、病気や痛みの可能性も考え、動物病院に相談しましょう。
そして、忘れないでほしいのは、正の強化は、犬や猫を甘やかすための方法ではないということ。
望ましい行動をわかりやすく伝え、安心して学習できる環境を整えるための方法です。
飼い主さんが「できたこと」に目を向けると、犬や猫とのコミュニケーションも少しずつ変わっていくかもしれません。
おわりに
犬や猫の行動を変えようとするとき、つい「何をやめさせるか」に注目してしまいがちです。
でも、もうひとつ大切なのは、「どんな行動をしてほしいのか」を考えること。
叱って行動を止めようとするだけではなく、望ましい行動を見つけて、その子に伝わる形で教えていく。
それが、正の強化の基本です。
もし、吠える、噛む、トイレの失敗などの行動に悩んでいて、何を試してもうまくいかないと感じているなら、一人で抱え込まず、獣医師に相談してみてください。行動の背景を理解することで、その子に合った対応が見つかることがあります。
「困った行動をやめさせる」だけでなく、「その子が安心してできる行動を増やす」。
そんな視点から、愛犬・愛猫との暮らしを見直してみませんか?
横浜市中区 本牧通り動物病院(公式サイト→https://honmokudori.com/)では、犬や猫が安心して暮らせる環境づくりを大切にしています。なにかお困りごとがありましたらお気軽にご相談ください。