こんにちは!横浜市中区本牧通り動物病院 行動診療科・獣医師の互(たがい)です。前回のブログでは、犬や猫が見せる「あくび」「顔をそらす」「逃げる」「唸る」「シャー」などのストレスサインについてお話しました。
「そういえば、うちの子もよくあくびをするな」
「嫌なことをすると唸るけど、これって怒っているのかな?」
そんなふうに、普段何気なく見ていた行動の意味に気づいた方もいるかもしれません。
では、犬や猫が「嫌だな」「怖いな」「困ったな」と感じているとき、私たちはどう接したらよいのでしょうか?
ついついやってしまいがちなのが、
「ダメ!」と叱って行動を止めること。
もちろん、危険なことをしているときには、その場で止めなければならないこともあります。
でも、行動診療では「とにかく叱ってやめさせる」という方法をおすすめしないことがあります。
今回は、「叱ると本当に行動は変わるの?」ということを、犬や猫の気持ちから考えてみましょう。
①「悪いことをしたから叱る」は、人間と犬・猫ではちょっと違う?
例えば、愛犬が来客に吠えているとします。
「こら!静かに!」
と叱ったら、一瞬吠えるのをやめた。すると飼い主さんは、
「ほら、叱ったらやめた!」
と思うかもしれません。
確かに、その瞬間の「吠える」という行動は止まったのかもしれません。でも、ここでちょっと考えてみましょう。
犬は、「なるほど。来客が来ても吠えないほうがいいんだな」と学習したのでしょうか?
それとも、
「怖い人が近づいてきた。でも、吠えたら飼い主さんに怒られた。どうしたらいいんだろう……」
となっているのでしょうか?
犬や猫は、人間のように「これは悪いことだから反省しよう」と考えて行動しているわけではありません。
その行動によって何が起こったのか、そしてその結果、自分にとってどんなことが起きたのかを経験しながら学習していきます。
つまり、「悪いことをしたから罰を受ける」という人間的な考え方だけでは、動物の行動を十分に説明できないのです。
大切なのは、「なぜ、その行動をしたのか?」という視点です。
②叱ったら「行動」は止まっても、「気持ち」は解決していないかも
ここが、前回の「ストレスサイン」ともつながる大切なポイントです。
例えば、爪切りが苦手な猫がいるとします。
爪切りをしようとすると、「シャー!」と威嚇する。
そこで「シャーって言っちゃダメ!」と叱ったら、猫が威嚇しなくなった。一見すると、問題が解決したように見えます。
でも、猫の中にある
「爪を切られるのが怖い・嫌だ」
という気持ちまでなくなったのでしょうか? おそらく、そうとは限りません。
むしろ、
「嫌だ」
↓
「逃げようとする」
↓
「捕まえられる」
↓
「シャー!」
↓
「叱られる」
という経験を繰り返しているうちに、さらに緊張が高まってしまうこともあります。
そして、最初は「顔をそらす」「体を固くする」「逃げようとする」「唸る・シャー」など、いくつものサインを出していたのに、それらを叱られ続けると……
「もう警告しても意味がない!」
という状態になり、人を咬むなどより強い行動に発展してしまう可能性もあります。
例えば、唸る犬を毎回叱っているうちに「唸らなくなった」。
これは一見よい変化に見えますが、
「怖くなくなったから唸らなくなった」のか、「唸っても状況が変わらないから、別の行動を選ぶようになった」のか
では、大きな違いがあります。
だからこそ行動診療では、単純に「その行動を止める」だけではなく、その行動が起きる前に、犬や猫が何を感じていたのかを見ることが大切なのです。
③「叱る」より先に考えてほしい、“その子が困っている理由”
では、問題となる行動が起きたとき、何を考えればいいのでしょうか?
ポイントは、「何をしたか」だけではなく「なぜしたか」を見ること。
例えば「吠える」という行動ひとつをとっても、
・ 怖いから吠える
・知らない人が来たから警戒している
・遊んでほしくて吠える
・飼い主さんに何かを伝えたい
・興奮している
・過去の経験から特定のものに反応している
など、理由はさまざまです。
「吠えた」という行動だけを見れば、全部同じように見えます。でも、原因が違えば対応も変わります。
トイレの失敗も同じです。
「またここでおしっこしたの!ダメでしょ!」と叱る前に、
「どうしてここでしているんだろう?」と考えてみる。
トイレの場所が落ち着かないのかもしれない。トイレが汚れているのかもしれない。環境が変わって不安なのかもしれない。そもそも膀胱炎などの病気が隠れているのかもしれない。
「叱る」というのは、起きてしまった行動に対する対応です。
一方で、「なぜ起きたのか」を考えることは、その行動が起こりにくい環境を作ることにつながります。
これは、問題行動への対応を考えるうえで、とても重要な違いです。
④「叱らない」=何をしても許す、ではありません
ここまで読んで、
「じゃあ、犬や猫が何をしても叱っちゃいけないの?」
と思った方もいるかもしれません。もちろん、そういう意味ではありません。
例えば、道路に飛び出しそうになっている犬を止める。
危険なものを口にしようとしている猫を遠ざける。
こうした場合には、まず安全を確保することが最優先です。
また、「してほしくない行動」をそのままにするのではなく、
「してほしくないことを止める」+「してほしい行動を教える」
という考え方が大切です。
例えば、飛びついてくる犬に、「飛びつくな!」と繰り返し言うだけではなく、
「四つ足が床についていたら声をかけてもらえる」という経験を積ませる。
ソファを噛んでしまう犬なら、ただ「噛んじゃダメ!」と叱るだけではなく、「こっちのおもちゃなら噛んでいいよ」
と、適切な行動を教えてあげる。
このように、「やめさせる」だけではなく、「どうしてほしいのかを教える」
という発想が、犬や猫との暮らしではとても役立ちます。
そして、そのためにはまず、「この子は何を伝えようとしているんだろう?」と考えてみること。
前回の記事でお話ししたストレスサインも、そのヒントになります。
「困った行動」の裏側には、困っている犬や猫がいるかもしれません。
犬や猫の行動を見て、
「またやった!」
「何回言ったらわかるの?」
「わざとやってるのかな?」
と思ってしまうことは、決して珍しいことではありません。でも、行動診療の視点から見ると、そこには、
「怖いよ」
「嫌だよ」
「どうしたらいいかわからないよ」
「こうしてほしいよ」
という、犬や猫からのメッセージが隠れていることがあります。だからこそ、困った行動があったときには、
「どうやってやめさせよう?」の前に、「なぜ、この行動が起きているんだろう?」と、一度立ち止まって考えてみてください。
もし、何度叱っても繰り返す、だんだん行動が激しくなっている、家族だけでは原因がよくわからない……という場合には、ぜひ早めに獣医師へ相談してみましょう。行動の問題は、飼い主さんの「しつけが足りないから」だけで起こるものではありません。
動物の気持ちや学習、環境、そして体の状態まで含めて考えることで、解決への糸口が見つかることがあります。
人間にとって困った行動をする子は、「困った子」なのではなく、もしかしたら「困っている子」なのかもしれない、
そんな視点を持つことが、犬や猫との暮らしを少し変えてくれるかもしれません。
横浜市中区 本牧通り動物病院(公式サイト→https://honmokudori.com/)では、犬や猫が安心して暮らせる環境づくりを大切にしています。なにかお困りごとがありましたらお気軽にご相談ください。